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退職関連の読書メモ

「仕事が嫌になった人へ」 岩元貴久著 PHP研究所

人は「幸せ」になるために働く。最近「仕事が嫌になってきている」全ての人へ、「働く=幸せ」感じるようになるためにはどうすれば良いのかについて書かれた本です。

「働く=幸せ」につながる発想法も素晴らしいのですが、私が一番印象に残ったのは「トイレ掃除という職業」に対する考察です。著者である岩元さんが公園に行った際、子どもがトイレに行きたいと言うので公園の公衆トイレを利用しようとしました。しかしそのトイレは汚物や紙が散乱していてとても使わせる気にはなれず、その日は家に戻ったそうです。それから1週間後に公園に行ったときに、再び子どもがトイレに行きたいと言ったそうです。前回のトイレの状況を思い出すとすぐに家に戻りたいところですが、我慢できないということで仕方なく同じトイレに連れて行くと、トイレはきれいに清掃されていました。子どもに用をたさせた後、再び公園で楽しい時間を過ごしたという出来事がありました。

岩元さんは(1週間前のトイレを知ってるだけに)「あのトイレを清掃した人は、大変だったろうな。もし、わたしがあのトイレを掃除する立場になったらどうだろう?たとえ、それで給料をもらえるのだとしても嫌だよな。 そう考えているうちに、あのトイレを掃除した人は、すごいなぁ、偉いなぁと思い始め」たそうです。事業家である「わたし」は「どんなにお金を積まれても、やろうと思いません。というか、正直にいうとできません。なぜなら、トイレ掃除は、自分にとってはお金異常に、勇気がいることだからです。世間の目という点もそうですし、自分の自尊心、そして、いくら人のために役立つことだとはいえ、精神的につらい仕事」であることに気付き「誰もやりたがらないようなような職業でありながら、それがないと人々が本当に困ってしまう、そういう職業に就く人こそ尊敬されてしかるべき」と考えます。

社会にとってはなくてはならにのに、(給料も含めた)世間の評価が低い職業がある。人の役にたつが(肉体的以上に精神的に)つらい職業がある。本当にお金に困っていてどこも就職できなければ別だが、正直、現在の自分も転職先としてそうした職業は選ばないと思う。だがこのエピソードを読んだ後は、みんながみんな好きで選んだわけじゃない3Kと呼ばれる職業に就いてる人の(自分にできないからこその)ありがたさを感じました。

話は変わるのですが、ニート問題にも面白い見方をしています。ニート問題を「働き手が、働きたくないと主張するのは、消費者が、商品を欲しくないと言っているのと同じ」で、我慢して働けというのは「村に一軒しかない蕎麦屋のようなもので、『まずい蕎麦なのだけど、これしかないのだから無理して食え。しかも競争相手がいないものだから、それを高価で売る」ようなものと例えています。企業側に魅力的な職場が提供できないことを問題としています。もっともそうした要求(働きたくなるような会社や魅力的な仕事)は自分の人生コントロールを放棄した発言であり、他人の用意した選択肢を待つ受身の姿勢には反対されています。「働く=幸せ」になるためには「主体的に選択」すること、「『自分にとってベストなことは何か』を意識した判断を下すこと」、何かをする場合(誰かに指示されて)いやいや辛抱するのではなく、自分がやりたいことに対して全力をつくす(ぎりぎりまで自発的に耐える)ことの大切さが述べられています。

面白い見方といえばポジティブ思考に関しても、最初からポジティブ思考でなければいけないかのような強迫観念に反対されています。ポジティブ思考を唱えている成功者は、成功しているがゆえに「物事をプラスに捉えるゆとり」があり、成功する過程のピンチの場面では100%ポジティブな状態ではないのではないかと想像されています。ただそうした困難に直面したときもあきらめずにやるべき事をやり続けて成功した。そうした成功した現在から振り返ってのポジティブ思考が本物だということです。つまり「成功した後に、本当にポジティブ思考の持ち主」になるということです。ポジティブ思考は「手段」ではなく「結果(成功したときの状態)」であるという見方です。

では効果的な「手段」は何かないのか?これに対して、ゴールを明確にしてフォーカスする(←これってよく聞くと思いますが)と同時に「ゴールを達成するための質問、『どうすれば……?』を口癖にする」これだけだと答えられています。「どうすれば目標を達成できるか」「どうすれば障害を乗り越えられるか」とあるように「どうすれば」の口癖をベースに考え始めることで問題解決者の思考法となるのです。その反対の口癖は「どうして……?」です。これだと失敗した場合や失敗した事に対する後悔ばかりで、物事を前進させる考え方が出てこなくなります。もし「どうして」という言葉が頭に浮かんだら、すかさず「どうすれば」という単語に置き換えるようにすべきです。

ただ「どうすれば」という言葉は、ゴールが明確でないと意味を持ちません。裏返せば「どうして」が口癖の人はゴールや目標が明確でないから、「どうして」が口癖になっているだけかもしれません。退職しようか迷っているときに「どうしてこの職業を選んだのか?」と過去のことを考えてもどうしようもありません。それよりば「どうすれば(自分が活躍できる)あの職業に就けるか?」とか「どうすれば今の職場をもっと良くできるか?」とかゴールを設定して考えた方が幸せに近づくはずです。その際は「どうして」を誘発しやすい過去を無視してでも、将来の理想を描くべきです。本書の例で言えば、生まれたばかりの無限の可能性を持つ赤ちゃんを見た気持ちで可能性を考えるべきです。赤ちゃんと比べると、ある程度年齢がすぎれた大人は確かに可能性や選択肢も限られているかもしれません。ですが、あらゆる可能性がかつて(生まれたばかりの頃)あったことを思い出し、0ベースで大きな夢やゴールや理想を思い描けることをまず信じてみてもいいのではないでしょうか。

最終章の「人生を思い通りにつくる」では、そのための3つのステップが紹介されています。「@求める結果を明確にして書き出し、Aその理由を明らかにし、B@と現状とのギャップを把握したうえで、@を実現するための行動計画を作成」すること。ここで重要なのはAのステップであり、それはどうしても実現させたい理由こそが困難にぶつかってもやり遂げようとする強い意志を生み出すからです。筆者は「人は、理由がないと動きません」と強調し@とAができれば8割は完成とします。もちろんBが無ければ絵に描いたもちであり「行動しなくてもよい願望は、幻想で終わり。」となってしまいます。そうならないためにもゴール達成にむけた行動を重点部分(キーポイント)にしぼって200%の行動量(「スマートに泥臭く」)が必要だとします。「行動を伴う目標は、予定となる。」ということになります。

世間からの評価ではなく、自分にとっての成功とは何かを考えること、その成功にむけて主体的に行動することが「働く=幸せ」につながる道だというのが私なりのこの本の理解です。